唄うたいと青年


***





彼は狂気の人《マッド・サイエンティスト》と自ら名乗った
「死体」を動かしたスラーの技術を己がものにしたかったそうだ

「死体」、「死体」か
彼のあんまりな言いぐさに俺は笑ってしまった

弟や妹は「部品」が足りなかったらしい
俺という完成品を得た彼は満足して去っていった



彼によると、俺の死んでいた数年の間に世界は大きく変わったらしい



旅をしよう、と思い立ったのはすぐだ
不思議と故国に留まる気はしなかった





そして



きみを



見つけた







未だに旅芸人として歌を唄っているんだね

ああ、髪を切ったのか
少し大人になった



きみは大勢の群衆のなかから俺を見つける



遠くてきっと声は届かないだろう
俺は表情を崩す
舞台では次の演目が始まって曲が流れ始めていた



きみの目にはそれがどう映ったのか、笑い返してくれた
俺は手を振ろうとして、すぐにひっこめた
その動作に気づいたらしくきみはまた笑った







その夜、なけなしの路銀を崩して花を買った
きみに似合う淡い赤の花



受け取ったきみはその花を髪に挿した
そしてお礼に、ときみは歌を唄う



どこか懐かしいその歌声は、「死体」のはずの俺の涙を誘った



次の町へ移動した旅芸人の一座のなかに、唄うたいの姿はなかった
一座はしばらくして噂を耳にする
どこかの町にいるという赤い花を挿した唄うたいは、それはそれは幸せそうに歌を唄うのだと








***END



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