泣くな、我が友



***


「ロマンシア」
 スターダンスが素っ頓狂な声を上げる。その理由は目の前で静かに涙を流すロマンシアに相違はなく、スターダンスは一体どうしたのかと彼の顔を覗き込む。
「どうしたの」
 ロマンシアは黙ったままだった。スターダンスはもう一度尋ねるかどうか考え倦ねて、結局ロマンシアが話す気になるまで待つことにした。

 机に座り、写真立てを前にロマンシアはぼろぼろと泣いている。言葉もなく、嗚咽もなく、ただひたすら黙って涙を流す様はなぜかスターダンスの心を捉えて離さなかった。
 スターダンスはそっと写真立ての中を覗き込む。至って普通の写真が飾られており、写っているのはロマンシアとスターダンスの知らない誰かのようだった。写っているロマンシアの年齢からして、そう昔の写真ではないらしい。

「……おまえも、相当暇なんだな」
 ようやく口を開いたロマンシアから出た言葉はこんな素っ気のないものだった。散々待たせた挙げ句にそれかとスターダンスは眉を顰めたが、ロマンシアお得意の強がりだろうと譲歩して、素直にそうだねと返しておく。
 それからすぐに持っている疑問を口にした。
「どうして、泣いてるの」
 核心を突く疑問にロマンシアは苦笑した。涙のせいで随分と引き攣ったぎこちない笑みだったが、ロマンシアの、恐らくは人に見せたくないであろう「醜態」を見てしまって幾分萎縮していたスターダンスには有り難い。
 ロマンシアは赤い眼でスターダンスを見て、それから写真立てを見て、ぽつりと呟く。
「人が死んだからだ」

 共に派遣されていたことのある戦友が、この間戦地で死んだらしい。遺体は故郷に戻って来られないらしく、写真に向かって謝ることしかできないのだとロマンシアは語った。
 幼いスターダンスは問う。ロマンシアと関係ないところで死んだ人間に、どうして謝らなくてはいけないのか?
 ロマンシアは首を振った。それくらい自分で考えろとでも言うかのように悲しそうな笑顔を振った。
 振れた赤い髪が涙に濡れる頬を隠して、スターダンスの視界からロマンシアの表情を奪う。彼は何度か言い返そうとして、でも上手い言葉が思いつかなかった。

 結局スターダンスはそれ以上言及しなかった。馬鹿にされたようで少々腹が立ったが、静かに泣くロマンシアにそれ以上近寄ることは許されないように感じた。
 彼は世の中には声を出さない、嗚咽すらない慟哭があることを知った。その事実はなぜかスターダンスの心に突き刺さって、理由もなくずきずきと痛んだ。


***END



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