リュークラ前提のリュ2クラ/リュート1生存編



***


「みんなのお兄ちゃん」が帰って来た。無論クラーリィ歓喜。己が21を越えたことなどすっかり忘れてそれはもう甘える甘える。そのうち恋人に収まった。
 大戦終了後フルートはハーメルとこっそり国を抜け出してスタカットに居を構えてしまった。スフォルツェンドではハーメルが嫌がらせを受けるから嫌らしい。それきり帰ってこない、要するに女王業丸投げ。しかし今のこの国にはリュートとクラーリィが揃っているので無問題。政治的にはむしろ増強された。
 リュートは「フルートが帰ってこないので世継ぎができない、だから代わりに君が産んでくれ」とか言ってクラーリィに変な魔法を掛けてくる。その度クラーリィは王宮を隅から隅まで走り回って逃げなくてはいけない。体力的に疲れるけれども、クラーリィはそれを恋人同士のふざけあいと解釈しているので大丈夫だ。

 そんな感じで早くも20年近い月日が流れた。関係は恋人同士のままだが、もう年月が経ちすぎて熟年夫婦みたいになっている。魔法のお陰で外見年齢だけは取らないのが唯一の幸せだ。
 あれと言えば何を指すのか通じるレベル。誰にだって公言してはいないがもはや暗黙の了解らしく、もうどちらにも縁談が舞い込むことはない。二人が終始くっついていても、なぜか朝同時に出勤してきても、もう誰も疑問を感じない。

 そんな、静かな湖面のような生活に一石が投じられた。
 スタカット村からやって来たリュートの甥っ子。つまりフルートの息子。名前はリュート、紛らわしい。しかも外見その他特徴がそっくりだ。つまり、彼の好みもリュートと似通っている。
 彼の投じた一石は、長いことなんの動きも示さなかった湖面になみなみと動きを作った。理由は簡単、クラーリィとリュートが付き合っていることを察知した彼は、わざわざリュートのいるまえで「あなたが好きです」と宣ったのだった。

「伯父上より優しくします」とは甥っ子の言葉。
 対しリュートは、「いまさら僕を捨てたりしないだろ」と笑う。彼は今更危機感を感じはしないらしい。君のことならなんだって知ってるさ、食べ物の好みも、趣味も、どこがイイのかも、それから僕のことを捨てられないってことも、なんて少し怖いことを笑顔で言ってのける。
 しかしクラーリィは、リュートのそういう外見からは想像できないちょっと怖いところ「も」好きなので、リュートのやり方は間違っていない。



「是非こんど、お食事をご一緒させてください」と甥っ子がクラーリィに頼み込んだ。
 クラーリィは「生徒一人の待遇を良くすることはできない」と断ったが、割り勘なら大丈夫です! と彼は力説する。何が大丈夫なのかいまいちよく分からないが、とにかく甥っ子の押しは強く、どうにもクラーリィには上手い言い訳が思いつかなかった。
 結局二人が押し問答を繰り広げていたところにリュートが乱入し、リュートが甥っ子を追い払う形で今回の問題は収束した。

 リュートは口を膨らませる。どうして君は、僕の恋人なのに他の人間から求愛されたのをきっぱり断らないんだい、と文句を垂れる。
 クラーリィの心が移るという可能性については微塵にも考えていないらしい。もっとも、実際クラーリィには今のところリュートを捨てて甥っ子に走るという気はないのでその態度はあながち間違っていない。
 しかしながら、正直健気に己をアピールしてくる甥っ子に「も」心が揺らぎ始めているので、何とも言い訳のしにくい状況になっている。
「怒らないでくださいね」
「何だい?」
「俺、あなたと甥の彼とに挟まれてると最高に幸せなんですよ。なのでその、強く出られなくて」
 僕の顔が好きなの君は、とリュートが問い詰める。顔もです、とクラーリィが真顔で返す。
 甥っ子もちょっとかわいいなと思っています、なんて死んでも言えない。
「君、この間彼が僕の恰好をしたとき僕じゃないって気付かなかったろう!? それもそういう訳?
 実際には気付いていたけど、見た目僕だからって騙された振りをしていたのかい? あの子がかわいそうだから?」
「あ、いやそれは」
 流石甥っ子と言うべきか、あの時はリュートのものまねが完璧だったため本当に気付かなかった。しかしここで「気付かなかった」と言っては最後、何をされるか分からないので、クラーリィは黙って頷いた。
 愛されるために何でもするなんて、ずいぶん可愛いじゃないか。ベクトルが違うが、この辺りはリュートととてもよく似ている。ついでに言うと、クラーリィがリュートを好く理由の一つでもある。
「そうなの? 気付いてたの?」
「はい」
 嘘をついたことに胸が痛んだが、背に腹は代えられない。

 リュートは両手を腰に当て、クラーリィをじっと眺めている。クラーリィは、少し肩を竦めてそんなリュートを同じく黙って見上げている。
「…僕、君のこと信じてるからね」
 先に沈黙を破ったのはリュートだった。この言葉が思った以上にクラーリィの胸に突き刺さる。
 ごめんなさい、嘘をつきました、でもその代わり絶対に離れたりしないので安心してください。
 そう、クラーリィは腹の中で念じる。
「信じるに値する人間になる努力をします」
「ねえ君、なんですぐ『俺もです』って言わないで『努力します』になるの? それってやっぱり――」
 クラーリィの瞳は、リュートの眉がつり上がったのをはっきりと捉えてしまった。
 しまったと思っても時既に遅く、リュートの手が伸びてクラーリィの両頬をつまむ。そのまま、左右にぐいっと引っ張られる。
「いひゃい!」
 うまく発音できないうえに、痛くて痛くて仕方ない。割合本気で引っ張っているらしい。
「僕の憂さが晴れるまでこうしてもらうよ!」
 リュートに手を離す気配はなく、クラーリィはしばらく極力痛みを抑えられるように顔を動かすことに専念しなくてはならなかった。

 この二人の痴話げんかは、当分続きそうだ。


***END



Top Pre