monochrome



***クラーリィ編


 吹き付ける風が季節の変わり目を伝える。クラーリィは一人大ベランダに出て空を見上げる。秋の高い空に輝く星々は吉兆の前触れ。
 ホルンの言う「命を落とすかも知れない」人間に、クラーリィは含まれない。

 黙って見上げた空は凍えたように動きがない。星々の微かな光のみが心許ない導となるこの時間帯。人間が、魔族が活動を停止し、その中でクラーリィだけが不規則な呼吸をしている。
「別に、」
 死に急ぐ訳じゃない。死にたいとなんて思ってない。けれど、ここでこうしてぬくぬくと軍に指令を下すだけの生活は、果たして世界を救うための役に立っていると言えるのか?自分はホルン女王の役に立っているのだろうか?
 この国から動くことの出来ない自分は死地に赴くことも出来ず、ここでじっと、ただ時が来るのを待つのみ。ハーメル初めあの連中が苦しんでいようが何をしていようが関係なく、ただこの宮のなかでぐるぐる回っているだけ。

 時折、どうしようもない空しさに襲われる。そしてそんなとき、必ずこのベランダへ来て空を見上げる。
 神が御座すと言われる空はいつも空虚で、「かみさまはなにもしてくれない」と呪いたくなるこの気持ちを少しだけ晴らしてくれる。
「親父と、お袋と…それから…王子と…」
 手をかざす。日光と違い、弱い星の光は手を空かしたりしない。この手は数え切れないほどの魔族を葬って、数え切れないほどの国民を救った。そして、いくらかの味方を見殺しにした。この手はとっくに王子の歳を追い越していて、でもようやく彼の功績に追いつけそうな自分が居る。

 自分は死んだ父母に誇れる人間になったと思う。妹に胸を張れる兄であると思う。
 リュート王子に対し誇れる大神官であるかは…少し自信がない。

 残念だがクラーリィには星読みの能力もなければ、空に故人の幻を見られるほどロマンティストでもない。

 クラーリィは空を見上げるのを止めた。苦笑いを零し、自省を引き上げ、踵を返し部屋へと戻る。深夜の凍えた風がクラーリィを追いかけ、長いカーテンを巻き上げた。

 「勇者一行」は確実に北の都に近づいている。全世界を巻き込む魔族と人間との戦争が、間もなく始まる。


***END



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