鬼と豆



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「…節分?」
 ええそうですよ、とホルンが微笑む。サックスはもう一度その単語を復唱して、それからふーん、と頷いた。
「世の中には変な風習があるんですね」
「ふふ、クラーリィも同じ言葉を言っていましたよ。魔除け、無病息災を祈る気持ちから来ているとか。よい風習です」
「ああ、魔除け…」
 ふんふん、とサックスはメモを取る。
 その後ホルンに「豆まき」の作法を習ったサックスは、いざ幼馴染みと実行せんと彼らの居るところへ向かったのだった。

「クラーリィ、おーい」
 居るかー、と声を掛ける。先ほどのホルン女王の話から察するにクラーリィもその話を聞いていたようだし、彼に協力を頼めば話が早いに違いない。
「クラー…いてっ」
 ドアを開けた途端飛来した、なにやら小さな丸いものをサックスは慌ててキャッチした。ここは苟も魔法兵団員、オフの日とはいえ常に神経を尖らせていなければ…って。握られていたのは豆だった。先ほどホルン女王に教授いただいた豆まき用の豆そっくり…というか多分そのものだろう。
「ク、クラーリィ何やって…いてて痛い!痛い!」
「ホルン様に聞いたか?投げるときは『鬼は外』って言うらしいぞ」
 ほら、とまたクラーリィが笑顔で豆を投げつけてくる。笑顔なのだが腕は全力で振るっているらしく、びしんびしんと当たる度いい音がする。
「俺鬼違うよ!違う!」
 サックスは弁解しつつ逃げの姿勢を取るが、クラーリィに聞き入れる気配、もとい振り上げた腕を下ろす気配は無かった。
「頭が紫だからな…赤鬼だな」
「違うよ!!」
 話にならないと判断したサックスは一目散に逃げ出した。たとえクラーリィといえど走りながら全力で投げる(しかもコントロールばっちりで)というのは難しいだろう。そう踏んだのだが…やはり当たる。しかも先ほどより命中率が上がっている。恐る恐るサックスは振り返った。そこには…

「馬鹿!馬鹿クラーリィ!」
「あはは、待てー」
 軽やかに走るクラーリィと、背後に背負った巨大な魔法陣(豆付き)が。どうやら彼は魔法によって的確に豆を投下しているらしい。
「反則だ!は・ん・そ・く!!」
「待てー」
「にこやかに『待てー』とか言ってるんじゃありませんっ!鬼はてめーだ!おめーが鬼だ!そのものだ!!」
 どうやったんだ、つか用意して待ってたな、とサックスは歯ぎしりをし、いつどうやって仕返ししてやるかというその一点に意識を集中させて、際限のない追いかけっこに身を投じたのだった。

 その光景を特に疑問にも思わず「仲が良いのねえ」などと言いながら眺めているホルン女王。いつの間にやら集まった幼馴染みたちと共に、豆をぽりぽりやりながら相変わらず元気な二人を眺めている。
「今年も元気そうで何よりですね、ホルン様」
「そうね、微笑ましいわ…」
 大勢の「子供」たちに囲まれて、ホルンは嬉しそうだ。
「サックスも振り返ってクラーリィの魔法止めればいいのに」
「本人必死だから、そういう単純なことに気付かないんじゃない」
 幼馴染みたちは顔を見合わせてくすくす笑っている。この後サックスが他人面して呑気に笑っている彼らに腹を立てて、クラーリィの操る豆の盾にしようと乱入するのだがそれはまた別の話。


***END



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