言葉の死神



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「次にここへ帰って来たら、俺が小さかった頃の話も聞きたいな」なんて言った五きょうだいは、為す術もなく全員殺された。
「もし帰って来たら、今度はちゃんと友人になろう」と言った相手をクラーリィはずっと待っていたのに、帰って来たのは無機質な全滅の報告だけだった。
「帰って来たら、今度こそ母娘の時間を持てますね。楽しみですね」と声を掛けたあの人は、娘との再会を待たずして死んだ。
「帰って来たら、ちゃんと謝るから。理由も言うから。だから、今はここで国を守っていて欲しい」と頼み込んだ親友たちは、揃ってクラーリィの言葉を無視して全員死んだ。

 見送る背中に「帰って来たら給料を上げてやるから」と言った。嫌な予感がした。捜索隊すら音沙汰なし、一週間を越えても帰還の報せは舞い込んで来ない。

 あんまりにも気持ち悪くなってトイレで吐いた。ここまで気分が悪くなったのは久しぶりな気がする。しばらくそのまま洗面所でぼうっとしていたのだが、執務室から消えるなり一向に戻ってこないクラーリィを心配してか、やがてパーカスが様子を見に来た。
「……どうした」
 クラーリィは黙ってかぶりを振った。ばかばかしい、こんなもの悩みと呼ぶことすら烏滸がましい。
 それでも心に刺す悪魔の声が、クラーリィを動かして已まない。
 なあ、とクラーリィは囁く。自棄だった。止めておけばいいものを、クラーリィを突き動かす絶望に近い何かがその興味に火を付けた。
「うん?」
「パーカスちょっと、頼まれごとをしてくれないか、『帰って来たら』……理由を話すから」
 具合の悪そうなクラーリィを心配してか、パーカスは二つ返事で引き受けてくれた。ありがとう、とクラーリィは返す。
「それより、……大丈夫なのか」
「ああ、大丈夫、放っておいてくれ」
 パーカスは青い顔をしたクラーリィを心配していたが、やがて諦めて頼まれごとを果たしに立ち去った。クラーリィはその背を、笑顔さえ浮かべて見送る。
 帰って来たら、気のせい。帰って来なかったら……

 さあさ神様女神様、お探しの死神は恐らくここにいるよ。


 ***END



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