「別荘を買った」



***


「クラーリィ」
「ん?」
 呼ばれたので素直に頭を上げた。湯気の立つカップを二つ持つシコードが視界の隅っこにいる。
 彼はつかつかこちらに近寄ってきて、黙ってカップを片方差し出した。クラーリィは「ん」という味気ない返事だけしてそれを受け取り、ふうふうしながら口を付ける。いつ頼んでも、どんなに味に注文を付けてもほろ苦いこの味で固定されているシコード製コーヒーは、目覚まし代わりにちょうどいいがこういう眠いときには少し苦すぎる。
「唐突なんだが…」
 シコードはクラーリィの隣に腰を下ろした。何だと首を傾げるクラーリィと、取りあえず一口飲んでみるシコード。うむよし、と満足そうに頷いてみせる。
「別荘を買ったんだ」
「へぇべっそ、…は?」
 納得しそうになってクラーリィは咽せる。思わずごくんと飲み込んでしまい、あちいあちいと舌を出す。
「しかも偽名で外国に」
「ちょっと待てよ。何で?」
「いやほら色々と、な」

 シコードが語るに、クラーリィの自室もしくはシコードの自室で逢瀬となると、誰かが「緊急!」とか言って乱入してくる可能性がゼロではないので昔からやめたかったらしい。しかしホテルでなんて選択肢はないので、じゃあどうするかとお悩みだったそうだ。
 そこで結局、どちらの国でもない場所に、名を偽って別荘を購入。閑散とした山奥の一軒家で利便性は果てしなく低いが、ワープや転送術があるからそういう問題はなかろうかと思った、とシコード。
 クラーリィが口をあんぐり開けているうちに、シコードはクラーリィの空いた方の手を取り、何かをきゅっと握らせた。慌ててクラーリィは己の手を見る。手の上にちょこんと収まるのは、どこからどう見ても鍵。状況的に考えて合い鍵だろう。
「ま、その気になれば鍵もいらんだろうが、形式上、な」
 にっとシコードが笑う。クラーリィは拍子抜けした顔をして「はあ」とだけ言って、再び視線を手のひらの上の物体に戻した。
 クラーリィの頭の中で、小うるさい何かがしきりに「愛の巣愛の巣」と叫ぶのが鬱陶しくてしかたがない。
「取りあえず次の年末はここで過ごしてみようじゃないか」
「そうだな…俺の私物は持ち込み可か?」
 着替えと、趣味の本と、とクラーリィは指折り数え始める。返事も待たずに勘定を始めた恋人と、そして答えを一つしか持っていない己に少し笑って、シコードは「無論」と頷いた。



 いきなり別荘を買う奴がいるか、などと言い合っていたのが懐かしい。月日はあっという間に過ぎ、別荘にお互いの私物がそれなりに増えだした頃、ようやく初雪が降った。北の国出身だから見慣れているシコードと、毎年見るより随分早い雪にお目に掛かって興奮気味のクラーリィと、二人が仲良く窓際に立って景色を眺める。しんしんと積もる雪は周囲の音を吸収して、ただでさえご近所のいないこの別荘はまるで世界から孤立したかのように静まりかえった。
「はぁー…雪だ…」
「クラーリィ」
「雪だぁー」
「やれ、仕方ないな」
 シコードはその場から離れ、毛布を持ってくる。電気もろくに通っていないこの別荘では暖炉が唯一の温暖源で、窓辺までいくと冷たい外気に暖炉ゆえんの暖気が負けてかなり寒い。肩に毛布を掛けてやると、クラーリィは思い出したように「どうも」と呟いた。
 ふう、と吐く息が白い。
「そんなに好きなのか」
 雪、とシコードは窓の外を指差す。毎年酷い量に降られるから、もう今では諦めしか浮かんでこない。
「いや、俺は雪は嫌いだ」
「何だって?」
「寒いじゃないか。好きじゃないな」
「…じゃあなんでそんなに熱心に見てる」
「理由が知りたいか? 当ててみろ」
 隣のクラーリィが意地悪く笑った。シコードはしばらく悩んだが、答えは浮かんでこなかった。嫌いなものを熱心に眺める理由?
「降参だ」
「情けないな…いいかシコード、」
 クラーリィがそっと手を伸ばし、シコードの顔の前でぴたりと止める。“しーっ”の形を取って、疑問符ばかりを浮かべるシコードの顔を己の手ごしに眺めてニヤリ。
「貴様と見る雪が初めてだからだ。俺はロマンチストなんだよ」

 律儀に黙ったままのシコードが素早く顔を赤くしたものだから、クラーリィはその場で笑い転げた。更に行儀悪くも指を差す。あんまりに笑うので気を悪くしたらしく、シコードは顔を真っ赤にしたまま眉をつり上げた。
「貴様、人で遊ぶな!」
「貴様ではない。クラーリィだ」
 いつぞやの聞き覚えのある台詞。クラーリィは舌を出し、毛布をマント代わりに羽織って部屋の奥へと駆けていく。
「クラーリィ待て!」
 逃げるクラーリィを、シコードが追いかける。メルヘンチックな追いかけっこを経て、辿り着いたのは寝室の前。ドアを背に立つクラーリィと、逃げ道はないぞと言わんばかりに仁王立ちしたシコードが、距離僅かに一メートル足らずという間隔で対峙している。
「寝室まで追い詰めるとはいやらしい奴め」
 追い詰められたクラーリィは不敵に笑う。無論シコードをからかっているだけだが、対するシコードは半ば本気でむかついているらしく、微かに青筋が浮かんでいた。
「おまえは俺に喧嘩を売っているな? 買うぞ、クラーリィ」
「ロマンチックな一夜を過ごそうとしただけなのに、おまえは恋人になんて仕打ちをするんだ」
 詰め寄るシコードをクラーリィは鼻で笑う。たちの悪いこの恋人は、シコードが本気でクラーリィに危害を与えることができないということをよく分かっていらっしゃるようだ。
「人を指差して笑ったのはどこのどいつだ」
「俺だ。おまえの顔が面白かったから」
 しかもすっかり開き直っている。シコードが仮に本気を出したところで簡単に押し込められる相手ではないから、余計にシコードの怒りを買っている。
「行儀が悪い」
「悪かったよ。悪かった、悪かった」
 本当に悪かったと思っているのか、クラーリィはひらひらと手を振って降参のポーズ。シコードはまったく信用していないようだったが、クラーリィの中では早くも解決してしまったらしく、あ、ところで、なんて話を変えてくる。
「シコード」
「何だ」
「寒いぞ」
「そりゃ、暖房のない廊下に薄着で突っ立っていたらな」
 そりゃ寒いだろう、とシコードは呆れる。クラーリィは毛布を頭からかぶり直して、「で」と呟く。
「俺が戻るべきなのは、暖炉の目の前かな? それとも、人肌の温もりの隣かな?」
「おお…誘ったな? おまえ今、誘ったな?」
 シコードがにじり寄るのを、クラーリィは至って楽しそうに眺めていた。堅物と名高いこの男を手玉にとって喜んでいるに違いない。
「そう思うのは貴様の心が汚れているから…おっと」
 予想より早く“本気”になってしまったらしいシコードがクラーリィの退路を塞ぐ。焦るなよ、なんて言いつつクラーリィはシコードの首に手を回した。酷くするなよ、なんて耳元で囁く。
「っ、それはおまえが俺に喧嘩を売っ」
「喧嘩をする時間がもったいないと思わないか、兄弟」
 シコードはしばらく黙って、そのまま無言でクラーリィを寝室まで引き摺っていった。抱きかかえようにも身長があるのだから仕方ない。こうして今日も口で負けたシコードは、やや八つ当たり気味に音を立ててドアを閉めたのだった。



 年末空けたからな! と開口一番クラーリィが言った。シコードはしばらく首を傾げて、それからようやく意味するところに気付いてああと頷く。
「反応遅いな。貴様が言い出したんだろうに」
「言葉が足りん大神官のくせに」
 二人はじっと黙って睨み合う。相変わらず素早く険悪になる癖が抜けないのは最早笑いどころだ。
 本日の切り替えの早さはクラーリィが上だった。まあ、なんて呟いて視線を逸らす。
「例によって睨み合ってる時間がもったいないので…そこそこ楽しみにしているよ、おまえと聞く除夜の鐘」
「聞こえないぞ」
「ん?」
 まだ怒っているのかとクラーリィは呆れ半分振り返ったが、シコードの表情は別段怒っているようではなかった。
「あんな山奥にまで響いてくる訳なかろうが。じゃあテレビでいいじゃないかとお思いかと思うが、アンテナ付けてないぞ」
 クラーリィはしばらく呆けた顔をしていた。存外ショックだったらしい。
「つ…付けとけよ…」
 ていうかおまえが受信しろ、とクラーリィ。シコードは鼻で笑った。
「鐘でも買うか?」
「おまえは俺に喧嘩を売っているよな」
「買ってやってもいいぞ? 遠慮するな」
「鐘買うくらいならアンテナ付けろよ…」
 いらない、と心の底からクラーリィ。
「鐘突くくらいなら蕎麦を食うし、この期に及んでテレビ見るより貴様の顔を拝んだほうがまだ幾分マシだ」
「拝観料を頂こうかな」
「マイナスの値になりますが宜しいでしょうか」
 別荘を買ってやっただろ、とシコードが言う。対するクラーリィの返事は「別に頼んでない」だった。

 しばらく黙って、二人は顔を見合わせる。どちらからともなく呟かれた「色気がない…」という呟きが、この場の全てを語っていた。
「よし、風呂入るか」
 今日は泊まっていくか、とシコード。クラーリィは部屋の片隅の掛け時計の方へ視線をやり、しばらく考えてから首を振った。
「時間が足りないな。でも風呂には入っていこう、俺ここの木製風呂が気に入ったんだ」
 シコードは肩を揺らした。笑われた理由の分からないクラーリィが眉を顰める。
「素直に一緒に入りたいと言え」
「おまえが入りたいんだろ? いいぞ、一緒に入ってやろう」
 クラーリィはその後も仕方がない奴めとかぶつぶつ言っていたが、シコードはあえて否定しなかった。年末に向け忙しくなってきた今日この頃、たまに見る恋人の顔が何よりの癒しだし、一分一秒でも長く同じ時を過ごしたいというのもまた事実だからだ。
「ちょっかい出していいか」
「はぁっ? …時間ないって言ったよな、俺」
 やめろよ、とクラーリィ。シコードは分かったと頷いたが、信用できないのか何度か同じ主旨を繰り返す。
「手を出すなよ。“流しっこ”とかならしてやっから、それ以上は自重しろよ」
 クラーリィは殴るぞ、と続ける。しばらく近寄らなくなるぞ、と脅し文句まで付ける。
「何だ、随分冷たいじゃないか」
「貴様少しは察したらどうなんだ。おっ…俺だってな。その、あれだ、我慢してんだよ、やられたら流されちまうだろ。流されたら大変なことになんだろ」
 一瞬の間を置いてシコードの顔が赤くなったが、それより更にクラーリィの顔が赤くなった。惚けて目をぱちくりさせるシコードを前に、いいか、と悲鳴のような声を上げる。
「俺が言うのもなんだけどな、俺に鈍いとか言われるようじゃ貴様終わってるよ」
 ごめん、と謝るシコードは笑顔。
「分かった。楽しみは年越しまで取っておく」
 クラーリィは返事代わりに舌打ちをした。シコードは睨み付けてくる恋人に近寄り、お詫びの意味を込めて額に軽いキス。そしてそのまま、口がへの字のまま直らないクラーリィを連れて浴室へ向かった。二人してこの部屋に戻ってくるまで、シコードはちゃんとクラーリィの言いつけを守ったということを追記しておこう。


***


「ゆっ…許さんぞ」
 まあまあ、とパーカスが窘める。かわいそうにクラーリィに仕事を持ってきた部下は、今にも飛びかからんばかりの剣幕のクラーリィに完全に怯えていた。
「貴様今何日の何時だと思ってるんだ、あ?」
「クラーリィ殿、別に彼はあなたに嫌がらせしようとして持ってきた訳ではありませんよ」
 分かっている、とクラーリィは吐き捨てた。それから、睨みを利かせたまま部下を追い払う。
「ホラ、後は俺の仕事なんだからおまえは下がるんだよ。今年一年ご苦労だった。また来年な、暖かくしてとっとと帰るんだぞ」
 部下は良いお年を、と言おうとしたらしく口を何度か開きかけたが、結局剣幕負けして頭を下げただけだった。すごすごと去る部下を尻目にパーカスは肩を揺らす。
「こんな状況下でも部下の今年一年を労えるようになられたのですね。口は悪いですが。あなたの成長ぶりにわたくし、感激でございます」
「おまえまで俺に喧嘩を売っているな」
 クラーリィはぽいっと完成品を放り投げる。パーカスがうまいことそれをキャッチして、完成品の積み上げられた塔の一番上にそっと載せる。

 折角あと少しで終わると思ったのに、とクラーリィは腹の底から呪詛を吐き出した。今日、そして今年が終わるまであと五時間を切っている。シコードとの約束の時間は無論守れそうにないが、それより更に問題なのはそもそも年越しの瞬間すらこの執務室で迎えなければならないかもしれないということだ。
「だいたいなんで年末ぎりぎりまで仕事が舞い込んでくるんだよ」
「仕方ありません。大国スフォルツェンド、予測不可能因子の塊のようなものです」
「仕事納めの儀式をもう一週間も前にやったんだぞ…大神官のこの俺自ら…!!」
「あの時は、これで終わりだと思ったのですがねえ。仕方ありません。雪崩で一部山村が埋まったりと、人の力ではどうすることもできないことが多々起きましたからね」
 パーカスはちらりとクラーリィの手元を盗み見る。何か約束があると数日前に聞いたような気がするが、となると必要以上にイライラしているのもそれが原因だろうか。
 しかし、それを問いただすのは止めておいた。折角クラーリィが本気でペンを走らせているのだ、邪魔することはないだろう。



「ああくそ、もう三十分前だ!」
 最後の一枚を仕上げるなりクラーリィはペンを放り投げた。そしてすぐにパーカスに悪いと思い直して拾いに行った。パーカスは出来上がった書類とペンを拾いに立ち上がったクラーリィを交互に見て、お疲れ様でした、と至って冷静に声を掛ける。
「俺は帰るぞ。いいよな? いいよな? じゃあパーカス、『よいお年を』」
 クラーリィは両手を振って、パーカスの返事も待たずに部屋を飛び出していった。ワープ魔法を唱える時間すら惜しいと思われる。
「…やれやれ。言っておきますが、三が日なんてございませんからね」
 聞こえていませんね、とパーカスは呟いた。クラーリィがばたばた廊下を走り去る音が微かに聞こえた。

「はーっ、はーっ、はーっ」
 ドアを閉めるなりクラーリィは着替えを開始。大晦日は掃除の日なんて言葉を忘れて数年が経っている。脱いだ服はその辺にぽい、そのままシャワー室に飛び込んで数秒水浴び。すぐに出て魔法を駆使して身体を乾燥。用意しておいた服を着て時計を見る。
 所要時間五分。
「やればできるじゃないか俺…!」
 念のためを思ってアイテムの数々を先に向こうに持って行っておいてよかった。今になって用意しているようでは絶対に間に合わなかった。
 クラーリィは姿見の前でくるっと回転、自分の恰好がおかしくないかを確認し、そのままもう一回りして中空に魔法陣を描き出した。
「成功しろ成功しろ成功しろ俺はやればできる男だ頑張れ俺!!」
 不時着だけは避けたい。どうせなら既に暖かいであろう暖炉の目の前にワープしたい。クラーリィはそう願って呪文を唱え、青白い光の中に勢いよく飛び込んだ。



「…はは、煩悩の神は俺がお嫌いか…」
 予想通り別荘から少し離れた雪の中に不時着したクラーリィは、半分埋もれた身体を起こして雪を払った。
 へくしゅ、とくしゃみをする。四方を見回し、なんとか視界に入った別荘を確認してまっすぐに歩き出した。まあ見える位置に不時着できたのだから幸いだ。見えないほど離れた位置に不時着したら最後、どう頑張っても年明けを暖かい室内では迎えられない。この方向音痴をどうにかしたいものだが、一体どうしたら改善できるのかクラーリィにはちっとも分からない。
「よっ、とっ、ほっ」
 雪を掻き分け、道なき道を真っ直ぐに進む。ワープという究極の手段があるにも関わらず三十分前だと焦っていたのにはこういう理由があるのだった。即ち、不時着した後の移動時間の必要性。
「…疲れたぞ」
 ようやくドアの前に辿り着いた。クラーリィはもう一度服についた雪を払って、静かにドアを押し開ける。視界に飛び込む暖炉の灯と、その横に立つ目を丸くしたシコードの姿。
 開口一番シコードは「何があった」と問いかけ、それからすぐに残念そうな顔をした。クラーリィがこの様な姿でギリギリにやって来た理由に思い当たったらしい。
「ただの失敗か」
「そうだ。ようやく覚えたか」
 シコードはバスタオルを投げて寄越した。クラーリィはそれを難なく受け取り、頭から被る。雪のなか放り出されたのはほんの数分だったように記憶しているが、その数分に随分降られたようで頭がしっとり湿っていた。
「何だ、言えば迎えに行ったのに。風邪を引くぞ」
「急げば一人でも何とかなると思ったんでな。現にほれ、なったろ」
 クラーリィはやや自慢気だったが、シコードは首を振っただけだった。なにゆえ方向音痴がワープ魔法の成功率に響くのかシコードにはちっとも分からないし、こんなことならもう少し人里に近い場所に別荘を構えてやれば良かったとすら思う。
 クラーリィは思い悩むシコードに一言、「気にすんなよ」と呟いた。

 こっちへおいでと手招きすると、珍しく素直に従いトコトコとやって来る。シコードは冷たくなってしまったクラーリィの肩を抱き寄せた。
 しばらくじっとしていると、微かに聞こえる鐘の音。
「…除夜の鐘聞こえんじゃねーか」
 シコードが肩を揺らして笑った。
「残念、あれは新年のお知らせだ」
 えっ、としばらく黙るクラーリィ。
「…あれ?」
「あけましておめでとう、クラーリィ。今年も宜しくな」
 シコードは内心色好い返事を期待していたが、クラーリィのそれはかなりぞんざいだった。クラーリィの興味は既に他に移っていると見える。
「ああっ俺の計画が…」
「計画?」
「あわよくばベッドの中でとかいろいろ考えていたのに…」
 シコードは笑うのは失礼だと思ったらしくしばらく我慢していたが、結局我慢できなくなってくすくす笑いだした。怒るかと思われたクラーリィだったが、新年早々喧嘩は御免被りたかったのか鼻を鳴らしただけ。肩を震わせるシコードの鼻っ面を弾き、おい、と不機嫌そうに声を掛ける。
「寒いぞ」
「分かりやすい誘い文句だ。俺は好きだよ」
 シコードは腕を解いた。ようやく離れた二人は少しだけ見つめあい、すぐに照れくさくなって視線を伏せ、今年もよろしくという挨拶替わりに軽いキスを交わす。

 短い一夜を過ごした後、昼食時を待たずにお互い慌ただしく国へ帰ったことを追記しておこう。しかし二人ともなんだか元気そうだったので、多分満足のいく年越しができたと思われる。


***END



Top